• Shigeru Kondo

生物の形づくりの謎を解く“カブトムシ角風船”

最終更新: 2018年6月29日

なんだが、怪しげなタイトルになってしまった。

今回は、カブトムシのツノの話である。この、巨大な角は、子供たちの人気の的だが、これがどうやって作られるかというと、なかなか理解が難しい。

ご存知の人も多いと思うが、この角は幼虫には存在せず、蛹に脱皮するときに、いきなり現れるのだ。その角にあたる構造は、幼虫の頭の中では、下図のような皺皺の袋として存在する。

これが、徐々に成長するとおもいきや、この袋は、既に、角の形を持っているのです。その証拠に、それを取り出して、ホースにくっつけて空気を入れたのが下の動画。

風船のように、膨らますとツノの形になるのだ。ということは、完成した角の形は 既に折り畳み構造の中に存在している、ということである。

正確な3D構造を作る超絶メカニズムを探して

何をバカなことやって遊んでるんだっ!と思われる方もいるかもしれない。だが、これは、「見た目の可笑しさ」からは想像できないほど、深くて広がりのある研究テーマから生まれたものなのです。知りたいのは、「任意の3次元の形態を、単純な仕組みで、しかも正確に作る方法」。

様々な方向からアプローチできそうだが、「生物に学ぶ」、というのが、一つの賢いやり方だろう。なぜなら、生物の「かたち」は千差万別であり、しかも、卵から「ひとりでに」しかも「正確に」出来上がるものだからだ。設計図を基に「外から」作られたものではない。だから、おそらく背後にある仕組みは、単純に違いない(と、思う)。

千差万別の昆虫の形態の中でも、特にキテレツなのが、ツノゼミである。下の写真をご覧いただきたい。(写真は、コスタリカ在住の昆虫学者・西田賢二氏のご厚意により掲載)

どれもこれも異常な形をしているが、全部ツノゼミというセミの仲間だ。これらの本体部分は、すべて、普通のセミの形と同じ。頭にかぶっているツノ(被り物?)の形が千差万別なのである。しかもそのツノがでかい。体の大きさの2倍以上のツノを持つものもいる。意味が解らない。前衛彫刻みたいだ。これがいったい、この昆虫にとって何の役に立つか?というのが気になるが、その疑問はとりあえず後回しにして、この様々な3次元形態をどうやって作っているか、を考えてみよう。

「かたち」を作る仕組みは?

ツノ作りの仕組みを考える上で、まず気になるのが、その成長の過程である。だんだん大きく育っていく過程を見れば、ツノ作りの原理が想像できる、と普通に考えたら思う。しかし、残念ながら、このツノゼミの場合も、角はだんだん大きくなるのではなく、幼虫から羽化する過程で「突然」現れるのだ。

上の図で、左からヨツコブツノゼミの羽化寸前の幼虫、羽化始まり、羽化途中、羽化直後。この間わずか30分足らず。(西田氏の助けを得て、私自身がコスタリカに行って撮影したので間違いありません。)

羽化の過程を見ると、巨大な角の全体が幼虫の頭の部分に格納されており、それがいきなり大きくなるように見える。ゴム風船みたいなものか?いやいや、ゴム風船では、こんなに、尖ったり角ばったりした形状は作れない。何か秘密があるに違いない。

詳しく調べたいところだが、困ったことに、生きたツノゼミは国外に持ち出せないし、日本に持ち込むこともできない。それに、形を研究するのはやや小さすぎる。(ヨツコブツノゼミの全長は約4mmしかない。)何か、代わりになる種を見つける必要がある。

そこで思いついたのが、カブトムシの角である。何よりでかくてかっこいい。男の子たちに大人気であり、趣味として飼育している人も多い。おかげで、幼虫を大量に購入することも可能だ。研究対象としてうってつけである。

皺皺の展開が「かたち」を作る?

さて、カブトムシの角は、幼虫が蛹になるときにあらわれる。下がその連続写真だ。

頭を覆っている固いカバーが外れ、中から前駆体が顔を出す。幼虫は盛んに、その巨大な腹部を蠕動させて、体液をツノ前駆体に送り込み膨らます。そして、わずか1~2時間で、角の形態が出来上がる。成虫のシャープでかっこいい角の形態とは少し異なるが、長さや枝分かれなどは、成虫と同じである。改めて、ツノの前駆体を見てもらおう。

皺皺である。しかもその数が異常に多い。蛹の角の外面はすべすべなので、角の拡大過程で、この皺が伸びる(展開される)はず。伸びれば、一気に全体のサイズも大きくなるだろう。よく見ると、皺の形状にも、いろいろなバリエーションがある。同心円状、平行な直線、波打った平行線、などなど、場所によって異なる。当然、展開された形態に影響するはずだ。ということは、もしかすると、この細かい皺皺の形状に、ツノの形態がコードされているということか?

だが、そう結論する前に、それをちゃんと確かめる必要がある。「折り畳みの展開」以外の現象も関与しているかもしれないからだ。下図を見ていただきたい。

これは、ショウジョウバエの肢の発生過程を模式化したもの。足や触覚などの「幼虫には存在しない」外部器官は、幼虫の体の中で「成虫原基」と呼ばれる細胞シートの袋として作られる。図の左が、肢の「原基」の断面図である。折りたたまれた構造をしており、蛹を経て成虫になる過程で、その折り畳みが伸びているのが解るだろう。

だが、皺の数は、カブトムシの角よりもはるかに少ない上に、原基と肢では大きさがまるで違う。だから、折り畳みの展開だけではこの形態や大きさの変化は到底説明できない。ほかの細胞変化も、変形に寄与しているのである。

原基を構成する個々の細胞は、柱状の構造をしており、厚みがあるが、成虫になるときには、それが、薄い扁平な構造になる。これで、表面積が莫大に大きくなる。さらに、近傍の細胞との位置関係がずれることにより、全体が変形することも知られている。いろいろな細胞変化が関与しているのである。



カブトムシの場合、短時間で変形が起きるので、これらの細胞変化が起きている可能性は比較的少ない。しかし、確認しなければ、結論は出せない。

本当に皺皺を広げるだけで「かたち」ができるか?

で、いくつかそれを確かめる実験をした。一つ目の実験では、まず、十分に育った幼虫の、頭のカバーを外す。次に、おなかに指で圧力を加えるのである。

すると、驚いたことに、体液の圧力で前駆体がぶわ~~と膨らみ、わずか、数秒で蛹のツノの形になってしまった。すごい。これでは細胞が移動する暇なんかあるはずない。可能性の一つが消えたことになる。しかし、細胞のシートがゴムのような性質を持ち、体液の圧力で伸ばされた可能性は残されている。それを消すにはどうするか。

そこで考えたのが、計算機の力を借りる方法。まず、ツノ前駆体の連続切片を作り、その2次元画像の連続から、3次元の皺皺構造を計算機の中に再現する。

次に、その折り畳みを広げた時に起きる形態変化を、物理計算により求めるのである。結果は、下の動画。





このように、見事に蛹のツノの形になる。細胞シートの「伸び」はないものとして計算しているので、全体の面積は一定。すなわち、折り畳みの展開だけで、この形態変化が起きているのだ。

さらにさらに、この実験結果をアナログで再現したのが、冒頭に示した角風船である。ツノ前駆体をホルマリンで固定し、細胞シートが伸びないようにしたうえで、シリコンチューブにつないで空気を出し入れした。そうすると、前駆体が膨らんで、ツノの形ができる。計算機シミュレーションの結果と同じである。

しかし、その方法が解らない・・・

以上の実験により、カブトムシの角の形態は、「幼虫の頭の中にあるツノ前駆体の皺構造の中にコードされている」、事が証明された。だが、よく考えてみると、これはすごいことである。「膨らますと特定の構造になる袋を、折りたたんだ状態で作っている」ことになるからだ。これがどれくらいすごいのかは、自分でそれを作ってみることを想像すると実感できる。

特定の形の袋状構造そのものを作ることは、難しくない。まず、粘土か何かでその形(3次元形態)を作り、その上に紙を貼り合わせていく。できたら、内側の粘土を取り去ることで、任意の形の袋が出来上がる。さらに、それを小さく折りたたむのも、難しくはない。しかし、カブトムシがやっているのは、その逆である。幼虫は、一度も最終形態を作ることなく、展開したらその形になる折り畳み構造を、いきなり作るのである。どうやったら、そんなことができるのか?そもそも、どのような設計原理があれば、そんなことが可能なのだろうか?

う~ん、まったくわからない。だが、実に面白い。(ガリレオの福山雅治のセリフを思い出してください。)

いろいろな皺パターンのパッチワーク

とりあえず、しわしわ構造を良く調べてみる。前駆体が成長する過程をみると、最初は、頭のカバーに密着した、単純なドーム形状であるのが、特定の場所から内側に貫入していき、大きな溝を作る。ついで、その溝に2次的な細かい溝ができていく。2重構造の皺皺である。



それぞれの場所の狭い範囲の皺皺を、計算機の中に再現して、それを展開させてみると、皺に応じた変形が起きるのを見ることができる。bは一つの方向に広がるが、それと垂直な方向にはあまり広がらない場合、cは全ての方向に広がる場合だ。dは、皺が一か所に集まるように見える場所。この場合、馬の背状の構造になる。さらに、e半円状の皺が集まったような場所。この場合は、平面に対し、斜め方向に突出ができる。(分岐したツノの先端部分)



つまり、前駆体は、いろいろな折り畳み法のパッチワークのようになっており、それが何らかの(まだ全然わからない)法則性により、統一的に制御されて、正確な形態形成を可能にしている、、、、、、ということなのだろう。その法則とは何だろう。めちゃくちゃ興味がある。それに解れば何かの役に立つ可能性もある。

カブトムシからツノゼミへ!形の変化は無限大!

実際のところ、カブトムシのツノなんか作る原理が解ったって、意味ないだろうと思われるかもしれない。しかし、冒頭のところで紹介したツノゼミを思い出してほしい。それぞれの種が、極めて自由自在に、独自の形を作っている。これらは全て、ツノゼミ科に属する極めて近縁の種である。それはすなわち、これらがほとんど共通の遺伝子セット(ゲノム)を持っており、体を作っている仕組み(遺伝子)もほぼ同じ、ということだ。言い換えると、これら千差万別に見える形態も、すべて、同じ手法で作られている、ということ。

だから、これを研究して見つかるはずなのは、「展開すると“任意の”3次元構造を作る皺皺パターンを作る方法」となる。どうでしょう?これだけのバラエティのある形が作れるのなら、昆虫やほかの甲殻類の形なら、すべて作れる可能性は高いと思う。(脊椎動物は脱皮で大きくならないので、この方法では無理。)

この研究は昨年始めたばかりで、やっと一つ目の論文が出たところです。(この記事は、その要約になっています。今後も、面白い法則が見つかり次第、HP上でご報告させていただきますので、ご期待ください。

論文の主な著者は以下の4名。松田佳祐(阪大医学部5年生)後藤寛貴(名古屋大農学部)新美輝幸(基礎生物学研究所)近藤滋(阪大生命機能研究科)他に形態の3次元構築に関して多鹿友喜先生(群馬大学)、青沼仁志先生(北海道大学)にシミュレーションに関して井上康博先生(京都大学)、秋山正和先生(北海道大学)、須志田隆道先生(北海道大学)に、多大なご助力を得ております。ここに、謹んでお礼申し上げます。

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Shigeru Kondo, Ph.D. Professor


Laboratory of Pattern Formation
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