Shigeru Kondo, Ph.D. Professor


Laboratory of Pattern Formation
Graduate School of Frontier Biosciences 
Osaka University
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  • Shigeru Kondo

生命科学でインディジョーンズしよう(前編)

最終更新: 2018年4月24日

ゲーマーがドラクエに嵌るわけ

大学院生の頃、ドラクエに嵌った事がある。D2の頃だったと思うが、同級生のH君が、真面目な顔をして言うのである。「俺らの知らないところで、“ろーるぷれいんぐげーむ”と言うのが流行っているのを知っているか?なんでも、ファミコンのゲームで恐ろしいほどの大人気らしい。実験ばかりで世間の事を知らないと、おいてきぼりを食うぞ。」

筆者もH君もファミコンを持っていなかった。そこで二人でお金を出し合い、ソフト(ドラクエ2)とファミコン1台を手に入れ、一日交替でプレーしたわけです。いやー、嵌りましたね。結局2人ともゴールまでに100時間くらいかかったのだが、ほぼ10日で終わらせてしまいました。当然、自分の順番の日には、ほぼやりっぱなし。食料を手の届くところに積んでおき、ベッドに転がり寝転んだまんま、18時間ぶっ続けにコントローラーを操作し続けた日も有りました。どれぐらい夢中だったかと言うと、「たとえ、キョンキョン(当時絶大な人気のアイドル小泉今日子さま)が、突然水着で部屋に入ってきても、邪魔だ!!帰れ!!と怒鳴りつける」くらいです。えっ?喩えが変ですか?まあ、そのくらい夢中になったと言う事です。


ドラクエをはじめとするロールプレイングゲーム(知らない人のために説明すれば、主人公のキャラを操って、地図の上を旅して財宝を手に入れ敵を倒す類のゲーム)がゲーマーのハートをとらえる理由は良く解る。誰しも、冒険アクション物の映画や小説は大好きなものだが、それを観客としてではなく、自分の疑似体験として感じることができるからだ。中でも、筆者は特にゲームが持つ「宝探し」の要素にひかれる。地図の世界を、いろいろな謎を解きながら、少しずつ宝に迫っていく。そのプロセスがこの上なくわくわくするのである。

宝探しは男のロマン?

実際、多くの冒険小説は「宝探し」の要素を含む。宝探しは男のロマンだよなぁってもんですよ。当然、スピルバーグはそこんところを解っていて、インディジョーンズシリーズは、終始一貫宝探しである。


そう言えば、30年くらい前に、コピーライターの糸井重里が徳川の埋蔵金の噂に取りつかれてしまい、山のなかでひたすら穴掘りをするという、不思議なTV番組があった。糸井が埋蔵金の地図を持つ老人と出あうところから始まり、わけのわからん地図を解読し、ここぞと思った地点を掘る。これがシャレや冗談ではなく「マジ」であることは、穴の掘り方を見れば一目了然である。何せ、巨大なパワーショベル(そんじょそこらのちゃちな奴ではない)を何台も使い、深さ50mはあろうかという巨大な穴を掘りまくるのだ。


番組には、アイドルも芸人も出てこない。製作費のほとんどをパワーショベルに費やしているので、出演費が無いのである。で、勿論、埋蔵金など出ない。出るはずもない。もし出ていたら、大ニュースになって、みんなが知っているはずである。だから、宝が出ないのは初めから解っているのだ。にもかかわらず、その空前絶後の土木番組は、高視聴率を記録して、シリーズ化までされたのである。みんな、どれだけ宝探しが好きなんだか?(注1)


宝探しに必須のアイテムが、宝の在り処を示す古文書、あるいは宝の地図だ。ほとんどの場合、冒険は、主人公がそれを手に入れるところから始まる。日常に生きる人間を、財宝という「非日常」に結びつけるには、彼を導く何かが必要なのである。だが、宝の地図は大抵怪しい。それを持っていたのは周りから@@@@扱いされている老人だったりする。そのうえ、中身は意味の解らない文言だらけだ。それでも主人公は、宝の存在を信じて旅に出るのである。地図に書かれている不可思議な文言の意味を解読し、未開のジャングルをさまよい、ナチの刺客につかまるが危機一髪で相棒のチンパンジーに助けられ、洞窟で出会った美女と恋に落ち、ついには宝にたどりつくのである。いやぁ。いいですなあ。宝探しさいこー。

科学者の本性は山師である

筆者はひそかに思うのだが、サイエンスっていうのは、宝探しに似ているのではないだろうか。科学者にとっての宝は、未発見の自然の法則である。それらは、人間によって作られるのでなく、発見されるのを待っているのだ。科学者の仕事は、それらを見つけて(証明して)掘り出す(発表する)ことである。だから、科学者の本性は、農民でも職人でも商人でも武士でもない。山師である。宝を掘り出すことができれば、名誉だし、それが大きな物であれば、富だってついてくる。青色発光ダイオードやiPSの大騒ぎを見れば、それは明らかだ。期待値でいえば、徳川埋蔵金の発見よりはるかに良いことは間違いない。

しかし、現実の生物学の研究室にいて、そうした大発見をリアルに目指せるかと言うと、残念ながらかなり難しい。特に最近の生命科学の研究は、以前のような個人研究からビッグサイエンス化しており、多数の学生・ポスドク・スタッフが、チームとなって設定されたプロジェクトをこなす、と言うやり方が普通になってきている。自分だけの研究ではないから、発見の楽しみも人数分の一になる。うれしくはないが、結果の重要性がある程度保障されている分、確実性は高い。仕事をコンスタントに出していかねばならない大学院生やポスドクなら、やむを得ない選択かもしれない。


しかし、それでも、何か自分だけの大発見をしたいというのは、山師たる科学者にとって当然の望みであろう。「一発凄いアイデアさえあれば自分だって」、とキャリー・マリス(PCRのアイデア一発でノーベル賞を取り、すぐに引退した西海岸のサーファー)にあこがれるのは、若い研究者としては当然のことである。


生命科学の宝の地図は?

問題は、どこを掘ったら良いのか?である。みんなが重要と気が付いているテーマの周辺は、既に人が群がっているか、掘りつくされている。あるいは宝の埋まっている位置が深すぎて、パワーショベル(大掛かりな研究組織)が必要だ。逆に、ほとんどの人が重要と思わないテーマだと、一人でも掘り当てられそうだが、今度は喜びもいまいちだ。願わくば、誰もがすごいっ!と思うような宝が、個人で掘りだせるところにあり、しかも誰も手をつけていない、という状況があってほしい。


そんな都合のいいテーマがあったら苦労しねーよ?と思いますよね。確かに、そんなテーマを自力で見つけると言うのは相当難しそうだ。しかしですよ、もし宝の地図があったとしたら?


そうなんですよ。大きな声では言えないので、ちょっと近くに寄ってください。実はあるんです、宝の地図が。生命科学における宝の地図、それは、「数理モデル」なんですよ。


数理モデルとは何か

数理モデルは、自然現象の原理を数式で表したものである。それをコンピューターで計算したものがシミュレーションだ。物理工学系の研究では、研究に必須の道具である。生物学の場合、昔はあまり見掛けなかったが、最近は、論文の最後の方にちょくちょく載るようになった。主に、実験から推定された仮説が、ちゃんと現象を説明(再現)できることを示すために用いられる。ちょっとハイテクっぽいので、論文のグレードアップのために効果的だ。

数理モデルの用途は、現象の再現(意地悪い言い方をすると、後づけの説明)だけではない。数式による表現がなされている訳だから、計算によって演繹ができる。そのモデルが「正しければ」、未知の現象(試していない実験の結果)を予言できるはずだ。いろいろ計算しまくった結果、誰も知らない現象が出てきたら、大当たりである。後は、それをそのとおりに実験で再現するだけで、すごい発見になる。答えがわかっているのだから、簡単なことだ。わおっ、それってまるで宝の地図じゃないか!数理モデルで大発見だぁ。


えっ?言ってることが詐欺師っぽくて、胡散臭い?だいじょうぶです。壺とか売りつけたりしませんから。ですから、もう少し話を聞いてってください。


数理モデルの怪しさ

もちろん、世の中そんなに甘くない。数理モデルには重大な問題があるのだ。実は、生命現象をあつかった場合の数理モデルの多くは、(宝の地図と同じように)とっても「怪しい」のである。なぜかと言うと、基本となる数式に信憑性が無いからだ。例えば、「ある遺伝子からタンパクが作られる速度を、調節因子の細胞内濃度から計算する式」を、

:Pはタンパクの濃度、sは調節因子の濃度

と表現したとする。最近の論文で良く出てくる式だが、これは「正しい」だろうか?

転写因子とタンパク合成の関係を、それなりに表しているので、「概念的」には間違っているとは言えない。しかし、転写の誘導は、たくさんの複雑なプロセスが連鎖した結果である。調節因子のエンハンサーへの結合以外に、転写複合体の形成、拡散の重合、ポリAの付加、スプライシング、核外への移送、リボゾームへの結合、アミノ酸の重合、の全ての反応の結果として、タンパクの合成が起きるのだ。それらの全てをおおざっぱな数式で代表してしまっているのである。明らかに、原理的には正しく無い。パラメータ値の有効数字も、現実の細胞の中の値としては1ケタもないはずだ。だから、何分後に、細胞内濃度がnmol/lになる、とかを計算で予測しても、計算結果は、大きな誤差を含む事を覚悟しなければならない。因子の数(この場合はタンパク種類)が複数になり、数式が増えると、誤差の問題が爆発的に増幅する。最初は小さな誤差でも、それが増幅されるため、計算による状態の予測(何時何分にそれぞれの濃度が@@になる)は事実上できないのだ。この難点は、どんなに定量的な測定をしてパラメータ値を精密に決めても克服できないことが、複雑系の研究から証明されている。(いわゆるバタフライ効果という奴である。この効果のために、長期の天気予報は原理的に不可能であることが証明された。)

それじゃあ、なんにもならねーじゃねえか!!話が違うぞっ、とお思いかもしれないが、もう少しがまんして聞いていただきたい。良く考えてみてください。怪しいからこそ、掘りに行く人がほとんどおらず、宝が残されている可能性が高いわけです。


数理モデルは現象の本質をとらえる

確かに細かい正確な数値の予測はできない。だが、概念的な式にでも、可能性は指摘できるのである。もし、計算の結果、人間の頭では絶対に思いつかないような、しかも非常に重要そうな現象がおきる可能性があると出てしまったら、どうだろうか。確実にそれが起きるとは言えないが、予測された現象が非常に重要であれば、試してみるべきだろう。


通常の生命科学実験も、研究者個人の経験と能力に基づいて予測をし、それを確かめるという作業の繰り返しである。経験に基づく予測は確実だが、見通せる範囲は広くない。だから、実験の多くは闇の中の手探りである。数理モデルは、その予測の範囲とパワーを劇的に広げる事ができる(かもしれない)ツール、なのだ。答えがあらかじめ解っているなら、どんな実験でも簡単である。しかも、その実験自体、数理モデルを知らない人には「思いもつかない」のであれば、モデルはまさに宝の地図となるはずだ。

先月号の、貝の巻き方に関する岡本モデルを思い出していただきたい。あれは、貝殻の合成に関する細かい化学的な過程とかは、全てすっ飛ばして「貝の欲求(どっちを向きたいか)」のみを扱った、極めておおざっぱで概念的なモデル化である。しかし、現実に、異常巻きアンモナイトの巻き方を考えるのには非常に強力だし、そこから、検証可能な実験を思いつくことも可能だ。マクロな現象を考える時には、式が現象の本質をとらえていれば、おおざっぱな方が有利なのである。

メンデルの遺伝法則も、演算が簡単すぎて「数理」という雰囲気には欠けるが、あれはあれで立派な数理モデルである。モデルは、遺伝の本質的な性質のみを記述しており、遺伝子の細かい動態には一切関知していない。しかし、だからこそあらゆる生物に適用できる一般性を持ち、恐ろしいほど役に立つ。遺伝法則なしで生物学はできないのだ。7月号で説明したように、当時既に存在した「粒子説」は、分離の法則とほとんど同じだから、メンデル以外にも同じ着想を得た人はたくさんいたはずである。だが、メンデルだけが、それを信じて実行したのである。信じて掘りに行かねば宝は手に入らないのだ。

さて、山師の皆さん。宝探し、やってみたくなってきましたでしょ? えっ? まだ信用できないし、不安があるって?しょうがないなぁ。では、今から、宝探しの冒険がどんな物であるかを、筆者の実体験を例にお話しすることにします。ここからのBGMは、インディ・ジョーンズのテーマでお願いします。♪ちゃ~ちゃらちゃ~、ちゃちゃ、ちゃんちゃんちゃん、♪

宝の地図を手に入れる

今から22年前の事である。筆者は当時、PDとして転写因子の研究をしていたのだが、その一方で、動物の形態形成に強く興味を持っていた。だから、いつかは、形態形成に関する新しい原理を発見・証明したい、と願っていた。

胚が正確な形態を作るためには、個々の細胞が、自分が胚の中のどこにいるのかを知る必要がある。だから、どうやって各細胞に位置情報を与えるかがこの問題の肝だ。この問題に対して、当時、ほとんどの発生学者が受け入れていた答えが<モルフォゲン勾配モデル>(注2)である。この理論によると、「シグナル分子が、卵の特定の位置に最初から存在しており、発生はそれに基づいて起きる」となる。ぶっちゃけて言えば、「位置情報はあらかじめ卵の中にある」と言うことだ。実に解り易い答えである。だが、筆者はこの理論に満足できない。卵の中の分子濃度勾配ごときでは、精密な動物の体を作るには、情報量が決定的に足りない。だから、まったく別の、「自律的に空間パターン(位置情報)を作る原理」が存在しなければならない。そう信じていた。それこそが、筆者が掘り出したい宝であった。

しかし、そんな夢のような原理を自分で思いつけるはずもない。それでも、そういう話をあちこちでしていたら、研究室の同僚の一人が「ここに、君の宝の在り処が書いてあるよ」と、ある論文のコピーをくれたのである。それは、筆者とはまるで縁のなかった数理生物学の論文だった。数式とか全然解らなかったが、分子の偏在も何もない平面に、迷路の様な縞模様が出現するシミュレーションが載っていたのである。

「えっ???こ、これって確かに・・・・」

と言う訳で、宝の地図は勝手に筆者の手に転がりこんできたのである。

原典をたどり、その理論はTuring(注3)が1952年に提唱した反応拡散原理であることが解った。数学は解らないが、何が書いてあるのか解読を試みる。どうやら、「化学反応が組み合わさると、互いに干渉して波が発生する。その波が動物の体に位置情報を作る。」というようなことが、数学で証明されているらしい。


波が体を作るだって?通常の生物学者の発想では、絶対に思いつかないトンでも理論である。しかし、それをTuringという天才数学者が「理論的にあり得る」事を数学で証明しているのだ。マジかよ?と思いつつ、友人の助けを借りながらシミュレーションしてみた。すると本当に、斑点、縞、網目などの繰り返し模様が、何も位置情報の無い状態から出現した。しかも、それらは動物の皮膚模様に、驚くほどそっくりだった。すごいっ!これが本当に起こっていたら、位置情報の問題は解決である。しかし、学会等でこの話を聞いたことが無い。尋ねても誰も知らない。なんで?こんなにすごいのに??(注4)

地図は偽物?

実はこの理論は、チューリングの死後、1970年代に、何人かの数理生物学者によって、盛んに宣伝され、一時、話題になったことがある。だから、ちょっと年配の発生学者なら、誰でも一度は聞いたことがあるポピュラーなものだったのだ。しかし、なにせ、「波が体を作る」という信じがたい理論である。この時点で、まともな実験屋は眉に唾をつけて三歩引く。しかも、証拠が全然ないのだ。当然実験屋は後ろを向いてバイバイである。この理論が次第にフェイドアウトしてしまったのも、無理もないのである。


さらに、1989年に地図の信憑性を決定的に損なわせる発見があった。それまで理論系の研究者は、ショウジョウバエの分節遺伝子の発現パターンが縞模様になることをして、Turing波が存在する証拠であると主張していた。しかし、分節遺伝子のエンハンサーをばらばらにして、それぞれのパーツでLacZを発現させてみたら、なんと、それぞれの縞の一本ずつが別々作ることができてしまったのだ。波でないことは明らかである。こうして、地図は「にせもの」であると「公式」に認定されてしまったのである。あ~あ。宝はやっぱりないのかなぁ・・・

伝説の語り部との出会い

とりあえず、初心に帰ってまじめに発生遺伝子をやろうと思った筆者は、この「誰もが偽物だと思っている宝の地図」は頭の隅にしまいこみ、ショウジョウバエ研究の大家W.Gehringの研究室に留学した。当時はhomeobox遺伝子研究が大盛り上がりで、研究室を上げて新遺伝子の発見とその機能解析に夢中になっていた。もちろんTuringの理論に興味を持つものなど、一人もいない。筆者も、卵の形態形成に異常を起こす遺伝子についての研究を始めた。だか、どうも楽しくない。なぜなら、これを幾らやっても、モルフォゲン勾配モデルの検証にしかならないことが明らかだったからだ。次第に悶々とし始め、実験には身が入らなくなる。昔やったシミュレーションをぼんやり眺める日が続く。

そんな筆者を見て、師匠のGehringがあることを薦めてくれた。数理生物学者のH.Meinhardtのところに行って議論して来い、と言ってくれたのである。Meinhardtは、Turing理論の語り部である。70年代から、あらゆる発生学の集会に参加してはTuring理論の重要性を実験家たちに説き続けた。Turing理論を研究している理論系研究者は、結構な数がいたのだが、大抵は理論の世界に閉じこもっており、生物学者に対して、しつこくしつこく、嫌がられてもしつこく説き続けたのは彼だけである。ただ、90年代に入ると、実験家は証明の無い机上の空論には露骨に背を向けるようになったので、孤独な語り部は次第に気難しくなっていった。

そんな語り部に会いに、一人でTubingenのマックスプランク研究所を訪ねた。語り部は、彫の深い痩身のドイツ人で、いかにも仙人然とした雰囲気である。彼は、まったく初対面の筆者がTuring理論の信奉者であることが解ると、熱っぽく語りだした。宝の素晴らしさを、宝の地図が本物であることを。非常に新鮮な体験だった。良く考えたら筆者はそれまで、Turing理論について肯定的な人に、一人もあったことが無かったのだ。生まれて初めて他人の言葉で語られるTuring理論の素晴らしさに、筆者は宝探しへの意欲を取り戻していく。Turingの波が動物の形を作っていることを、世界でいちばん信じている2人の議論は2日間続いた。宝はやっぱりあるのかもしれない。帰りの電車で、そう思った。


お宝発見のニュース、ただし物理学で

さらに、研究室に戻ってまもなく、衝撃的な論文がNatureに掲載される。テキサス大学の物理学者が、純粋な化学反応でTuring波を作ることに成功した、と言うのである。筆者は知らなかったのだが、物理学の世界でも、「Turing波が本当に存在しうるのか?」、は謎だったのだ。それが突然解決されてしまったのである。その論文では、2枚のガラスに挟まれた薄膜のなかで特殊な化学反応起こさせると、温度によって、無模様、斑点、縞、とパターンが自由自在に変わる様が示されていた。まちがいなくTuring 波である。


しかし、筆者には、その化学反応のパターンが、動物の皮膚模様に見えて仕方がなかった。Turing波は、人間に作れるのである。だったら、45億年に及ぶ生物の進化に作りだせないはずが無い。もはや、疑問の余地はない。宝は、誰が何と言おうと存在するのである。そう決めた。誰も信じなくても全くかまわない。いや、むしろ信用されない方が、好都合だ。この宝は絶対誰にも渡したくないのだから。


さて、盛り上がってきたところで恐縮ですが、今回はここまでです。

どうでしたでしょうか、宝への旅の前半は。

えっ?決心しただけで、まだ何も始まっていないじゃないかって? ちっちっち。最初に言いませんでしたっけ。宝探しで一番難しいのは「信じる事」なんですよ。決意してしまえば、もう否応なく前に進むしかないんです。


と言う事で次号「お宝への旅編」では、「宝を見た」と語る謎のおばちゃんとの出会い、80万円を費やして自宅アパートで行った自腹隠れ実験、ラスボスH先生とのスリル満点の攻防、という波乱万丈のエピソードの後に、ついにお宝を手にするまでをお話しします。



(注1) 糸井重里の埋蔵金掘り

なにはともあれ、「糸井+埋蔵金」でyoutube画像を見てください。ブルドーザーで木をなぎ倒し、大型パワーショベルで、がしがし掘りまくってます。もう、宝探しなんてもんじゃござんせん。ほとんど、石炭の露天掘りです。バカです。でも、その馬鹿さ加減が大好き!!


(注2)

モルフォゲン勾配モデル

70年代にwolpertにより提唱された原理。シグナル分子が、卵の特定の位置に最初から存在しており、そこから拡散によって卵全体に濃度勾配を作る。個々の細胞は、シグナル分子の濃度から、自分の位置を知る。実際に、卵の中には、この理論が想定する様なシグナル分子の勾配が存在することが解ったことから、この理論は位置情報形成原理のドグマとなり、ほとんどの発生学者はこの理論を作業仮説として研究をすすめていた。しかし、この考え方では、プラナリアやイモリの四肢にみられるような、再生が説明できない。また、卵に存在する位置情報では、その量も正確さも明らかに足りないと思う。


(注3) Alan Turing

イギリスの天才数学者。最初の大きな仕事は、仮想的な計算機械Turing machineを提唱したこと。これは本来、ゲーデルの不完全性原理(数学の体系の中には、証明不能の定理が存在する)の証明として提案された。後に、この仮想機械が、現代のコンピューターの原型となったことから、Turingは計算機科学の父と呼ばれる。また、第2次世界大戦の時、イギリスの暗号解読チームを率いて、ドイツの暗号「エニグマ」を解読。北太平洋のU-boatを全滅させるのに大きく貢献した。Turing波の研究は彼の最後の仕事。1952年に、白雪姫と同じやり方で、リンゴに塗った青酸カリで自殺。天才は不幸だなあ。


(注4)

反応拡散モデル

2種類の分子の反応と拡散が、うまく組み合わさると、場に分子の濃度の安定した波が発生し、それが動物の体の位置情報の基になる、というTuringによってとなえられた仮説。数学的にはモチロン正しいので、理想的な分子があれば存在可能であることは間違いない。Turingの波は、式のパラメータを変えるだけで、様々な空間パターンを、均一な(位置情報の無い)場からでもつくることができ、さらに、人為的に壊しても、自動的に修復される。原理的に、砂丘にできる風紋のようなものと思っていただければよい。筆者がこの仮説を気に行った理由は、通常の実験科学者の感からは、絶対に思いつくことが不可能な、ぶっ飛びさ加減である。詳しくは、「シマウマの縞の謎を解く」をお読みいただければ幸いです。

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