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  • 執筆者の写真Shigeru Kondo

超大物生命科学者の写真に落書きを!

第36回分生年会企画「大先生のポートレートでアートする」結果の公開です。


12月に行われました分子生物学会では、この分野の大御所先生のお顔に、いたずら書きを

する、という傍若無人な企画が行われました。いやいや、もちろん彼らを貶めるなんてめっそうもありません。背後に、研究不正を呼びやすい昨今のラボ環境を是正する意図がある、非常に真面目な企画です。


近年の研究環境では、ラボの大きさが拡大し、1人のPIが非常に大人数の研究員を使って仕事をすることが増えています。そのため、PIと研究員のコミュニケーションが希薄になり、また、雇うもの雇われるもの、というヒエラルキー強く意識される場合も出てくるでしょう。研究不正の調査結果をもれ聞くところでは、そのような環境で上からのプレッシャーに逆らえずやらされてしまった例も多いらしい。何らかの改善策が必要ですが、「もっとフランクに話し合う機会を持つように」のような通達を出したところで、効果は全く期待できません。


私(近藤)はバーゼル大Walter Gehring教授の下でPDをした経験がありますが、そこでは、研究に対する議論が行われる時には、ヒエラルキーを感じるような様子はなく、大きな業績を挙げた研究者に対する尊敬の念はちゃんと持ちつつも、大教授と学生の間でも、対等な関係で議論が行われていました。その雰囲気を象徴する、興味深い出来事ありましたので、紹介します。


研究所の記念パーティーの時に、学生の一人がGehring教授をネタにしたポスターを作りました。その頃、研究所内では、オスがメスを追いまわすショウジョウバエの突然変異(horny fly: hornyは性欲過多の意)が話題になっており、ポスターではhorny professor と題し、Gehring教授そっくりの裸の変態男が、非常に見事に描かれていたのです。当然、それを見た研究員は大笑いですが、Gehring教授も、怒るどころかその似顔絵をたいへん気に入り、長らく教授室に飾っておりました。日本ではなかなかないことですが、さすがにファーストネームで呼び合う国は違う、と感心した記憶があります。こうした関係があれば、研究不正を強要されるようなことはあり得ない。


この雰囲気を少しでも持ち込めないかと考えました。分子生物学で非常に大きな業績を挙げた研究者の顔写真を展示し、それにいたずら書きをする企画をしよう。しかも、できるだけ「えら~~い」先生をつかって。おそらく、ちょび髭を描かれたり、アッカンベーになったり、もっとひどいことになるでしょう。しかし、そんな偉~い先生を見ることで、学生等は、非常に高名な研究者が、そのような遊びにも協力するほどフランクであることを印象づけられ、自分のラボの教授に気後れする必要が無いことが感覚的に解るはず。さらに、ラボの中で強権的にふるまっているようなPIがそれを見れば、自分の日頃の態度を改めるのではないだろうか。


うん、この企画は素晴らしい!と思いましたが、思うのは簡単でも、その承諾を取るのは極めて難しい。当然、「誰が見ても超大物」でなければならず、それは同時に、御機嫌を損なえば、どんな恐ろしい災いが振ってくるか解りません。


さすがに、1か月以上迷いました。しかし、年会長たるもの、「年会の意義を高めるためなら死ねる」と言わねばなりません。


まず、大学院時代の師匠、本庶佑先生のところに行き、説得しようと思ったのですが、なかなか言い出せません。だって、顔写真にいたずら書きをさせろ、ですよ。怖くて怖くて。しかし、本企画の趣旨を必死に説き、最後に写真の提供を切りだしたところ、一発でOKが出ました。いや、本当に案ずるより産むが易し、です。すかさず同じ建物にいらっしゃる長田重一先生のお部屋に行き、こちらもOKを取りました。


その後は、「本庶先生、長田先生が既に協力を申し出てくれている」事を錦の御旗に掲げ、審良静雄先生、中西重忠先生、近藤孝男先生、竹市雅俊先生、大隅良典先生を撃破、じゃなくて了解を取り、最後に待望の山中伸弥先生の了解を取り付けて、企画の成功は約束されました。


当日は、国際会議場3Fのロビースペースに、額に入れた8名の写真をこんな風に展示。



傍のテーブルにマジックペンとお払い棒(何か祟りがあるといけないので)を用意して、学会参加者のアート感覚とガッツを待ちました。

で、できたのが、こんなのです。


行きますよ~~


ど~~~~~~ん。


左上から、人食い審良静雄先生、耳付き萌え大隅良典先生、鼠小僧近藤孝男先生、フランケン竹市雅俊先生

左下から、ゴッドファーザー中西重忠先生、月光仮面長田重一先生、パルプンテ本庶佑先生、ゴルゴ山中伸弥先生

となっております。


いや、何もコメントはいたしません。

しかし、こんなことして良かったのだろうか?


実は、年会にはNatureの編集者が来ており、このいたずら書きを写メでとり、ツイッターで流しておりましたので、

既にワールドワイドに巻き散らかされてしまっています。ついでに、このいたずら書きを、ネタにトークショーまでしまっていますので、今更逃げようもありません。


写真を提供戴いた大先生には、作品を写真立てに入れた物をプレゼントしに伺い、御無礼を謝罪いたしました。ところが、うれしいことに、皆、大変喜んでくれたのです。中西先生などは「俺のが一番かっこいいなあ。どうだ?」とご満悦でした。下の写真は、いたずら書きされた写真を手にした山中先生です。


どうでしょう?学生のみなさん。

大先生たちは、皆、こんなにフランクで、学生PDとのふれあいを欲しているのです。

あす、あなたのボスにラボで逢ったら、マジックで髭を書いてしまいましょう。

きっと喜んでくれます。(責任は持ちません)



追記(2018,11,2)

大隅先生に続き、本庶先生もノーベル賞を受賞されたことで、このとんでもない企画に、3名ものノーベル賞受賞者が関わっている、ということになりました。正直、あと2名くらいは行けるのではないか、と期待しております。


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